福岡家庭裁判所 昭和38年(少イ)4号 判決 1965年2月05日
被告人 大岡守こと山下土太郎
南正人こと水口正人
主文
被告人山下土太郎を罰金二万円に、
同水口正人を罰金一万円に、
それぞれ処する。
右罰金を完納することができないときは、金四百円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置する。
訴訟費用中証人徐ミサ子、○戸○○子、○戸○○ヱに支給した分は、被告人両名の負担とし、証人○島○子、○島○雄、月成辰男、上田美佐子に支給した分は、被告人山下土太郎の負担とする。
理由
(罪となる事実)
第一、被告人山下土太郎は、「エンゼル・ショウ」と称するストリップショウを行う劇団を事実上主宰し、九州各地を巡業していたものであるが、法定の除外事由がないのに、昭和三八年六月一一日頃福岡市柳町所在の日劇々場において一八歳に満たない児童である○戸○○子(昭和二一年一〇月四日生)及び○島○子(昭和二二年二月三日生)の両名を、児童のしゆう恥感情をそこないその徳性を害する程度のストリップショウの踊り子として出演させる目的を以て同劇団加入の上巡業することを承諾させ、引続き○戸○○子については同月二一日頃までの間、長崎市出来大工町千日劇場外一カ所、○島○子については同年七月五日頃までの間、同劇場外四ケ所の各劇場において、前示ストリップショウに出演させ、
第二、被告人水口正人は、「東京ピンク・ヌードショウ」と称するストリップショウを行う劇団を主宰して九州各地を巡業していたものであるが、法定の除外事由がないのに、昭和三八年六月二二日頃熊本市文化劇場において、一八歳未満の児童である○戸○○子(昭和二一年一〇月四日生)を前同様ストリップショウの踊り子として出演させる目的を以て同劇団に加入させ、引続き同年七月五日頃までの間同劇場外二ケ所において、同ストリップショウに出演させ、
もつて児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、同女等を自己の支配下に置いたものである。
(証拠の標目)
判示第一の事実について、
一、○戸○○子、○島○子の各戸籍抄本
一、証人徐ミサ子、○戸○○子、○戸○○ヱ(以上第三回公判)、○島○子、○島○雄(以上第四回公判)、月成辰男(第五回公判)の各供述調書、○戸○○子の検察官に対する昭和三八年七月一九日附供述調書、曹洋子の司法警察員に対する供述調書謄本
一、証人上田美佐子(第七回公判)、同水口正人(第一一回公判)の各証言、上田美佐子及び水口正人の検察官に対する各供述調書
一、被告人山下土太郎の検察官に対する供述調書
判示第二の事実について、
一、○戸○○子の戸籍抄本
一、証人徐ミサ子、○戸○○子、○戸○○ヱ(以上第三回公判)の各供述調書及び○戸○○子の検察官に対する供述調書
一、被告人水口正人の司法警察員(二通)、検察官に対する各供述調書及び被告人の当公廷における供述の一部、
以上の各証拠を綜合して、判示事実はいずれもこれを認めることができる。
山下被告人は、昭和三八年六月初頃その主宰していた劇団を矢野浩介に譲渡し、判示二児童を雇い入れたことはない旨極力否認しているけれども、前掲証拠中特に証人徐ミサ子、○戸○○子、○島○子、月成辰男の第三回乃至第五回公判における各供述調書、○戸○○子、上田美佐子及び山下被告人の検察官に対する各供述調書によれば、同被告人において依然として事実上判示劇団を主宰し、判示二児童を同劇団に加入せしめたのも同被告人であることを認めるに十分であつて、証人山下伸子、桑野富雄(以上九回公判)、権藤繁登(一一回公判)の各証言によつてもこれを動かすに足らず、他に右心証を覆えすに足る証拠もない。
そして、児童のしゆう恥感情を害し、その徳性を損ずる程度の判示ストリップショウ劇団に踊り子として出演させる目的を以て、児童を甘言を以て勧誘し劇団に加入せしめて名地巡業に連行することは、該児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、自己の支配下に置いたものといわねばならず、児童福祉法第三四条第一項第九号に該当し処罰を免かれないのであつて、正当な雇用関係を認める余地はない(昭和三五年二月一九日福岡家庭裁判所家庭月報一二巻四号一五三頁、同年一一月一七日横浜家庭裁判所同月報一三巻二号二二八頁、昭和三八年三月二八日同裁判所同月報一五巻七号一五四頁各参照)。又労働基準法第六三条第二項女子年少者労働基準規則第八条に掲記されている各業務は、有効な雇用関係にある女子年少者と雖も使用者において安全衛生、もしくは福祉の見地から就業せしめてはならない業務を列記したまでであつて、弁護人所論のように、右規則に掲記されていない業務についてこれと異る児童福祉法が放任許容している趣旨に解すべきではない。すなわち児童に対しては、前示児童福祉法第三四条第一項九号所定の除外事由のある場合を除いて、第一次的に同規定の適用があるほか、雇用関係の認められる場合においても、前示労働基準法及び女子年少者労働基準規則による二重の制限を受けていると解するのが相当である。従つてこれらの点に関する弁護人の論旨は、いずれも採用の限りでない。
(法令の適用)
児童福祉法第三四条一項九号、第六〇条二項、刑法第一八条、(被告人山下については刑法第四五条、第四八条二項も適用)
訴訟費用の負担について、刑事訴訟法第一八一条一項本文、
尚量刑について付言すれば、被告人山下において昭和三八年五月三〇日(同年六月一四日確定)横浜地方裁判所において営利誘拐、被拐取者収受罪により懲役一年六月、四年間執行猶予に、被告人両名において昭和三九年一二月二一日(昭和四〇年一月五日確定)福岡高等裁判所において懲役各一〇月(被告人山下は監禁罪、被告人水口は傷害罪)五年間執行猶予、保護観察に付されているのであつて、これらの事案はいずれも昭和三七年三月以降同年七月初旬に及ぶ犯行であるが、更に本件犯行に及んでいることは、その情状において極めて悪質であるといわねばならず、検察官の懲役刑求刑も一応首肯されないではない。
しかし、被告人等に対し保護観察付執行猶予の恩典が与えられた情状を仔細に考えれば、本件事案について再度実刑を科し、前掲執行猶予の恩典を喪失せしめるのは、余りに多大の犠牲を強いる結果となり、刑政の目的に沿う所以でもない。
従つて被告人等に対しては所定刑中罰金刑を選択して所断することとする。
よつて主文のとおり判決する。
検察官 古賀宏之出席
(裁判官 厚地政信)